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【ビジネスケース】○○○○、看板商品「○○○○○」事業売却の観測広まるが…

投稿日:2019-02-22

【引用先】Business Journal

武田薬品、看板「アリナミン」事業売却の観測広まる…
財務悪化で格付け会社が一斉に引き下げ

(文:編集部)
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武田薬品、看板「アリナミン」事業売却の観測広まる…財務悪化で格付け会社が一斉に引き下げ
文=編集部


 武田薬品工業は1月8日、アイルランドの製薬大手シャイアーの子会社化を完了した。売上高が3兆円を超える日本発のメガファーマ(巨大製薬会社)が誕生した。

「グローバルな研究開発型の企業になる」。クリストフ・ウェバー社長はシャイアー買収後、こう抱負を語った。

 買収総額は日本企業として過去最高の460億ポンド(最終的に6兆1984億円で確定)。対ポンドで円高になっており、円換算の買収額は当初の想定(6兆8000億円)より縮小した。シャイアーの全株式を1株当たり30ドル(約3200円)の現金と武田薬品が発行する新株を組み合わせて買い取った。

 新株の発行で、発行済み株式数は2倍に増加。シャイアーの買収に備えて2018年12月、武田薬品は米預託証券(ADR)をニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。NYに上場したことにより、欧米のシャイアー株主は武田薬品株を保有しやすくなり、東証で彼らが武田薬品株を手放すことによって起こる株価の下落を防ぐ株価防衛策を講じた。

 買収後は、シャイアーが強みを持つ血友病などの希少疾患分野が稼ぎ頭となり、新生武田の売り上げの22%を占める。地域別の売上高では米国が最多の49%を占め、日本は18%となる見通し。世界最大市場の米国で攻勢を強める体制を整えた。

 しかし、米国では製薬会社への風当たりが強まっている。ドナルド・トランプ大統領は就任前から「薬価が高すぎる」と製薬会社を批判。18年11月の米中間選挙前には、薬価抑制策を公表した。今年に入り野党・民主党議員も薬価引き下げ法案を議会に提出。薬価引き下げで米政権と野党が歩み寄ったかたちだ。

 ウェバー社長は、ニューヨークでメディアに「成果報酬型薬価」に言及した。薬が効いた分だけ薬価を支払う仕組みが広がれば、患者や国の医療費負担が減る可能性がある。新しい仕組みの導入で高額医薬品の採用が増えれば、製薬会社の膨大な研究開発費の回収が見込める。

 シャイアーの買収は短期的には武田薬品の稼ぐ力を高め、大型新薬を生み出すまでの時間稼ぎができる。だが、買収によって、武田薬品の純有利子負債は約5兆4000億円と18年3月期末の8倍に膨らんだ。財務リスクと背中合わせの買収に対する投資家の懸念は払拭できていない。

 格付け会社は財務リスクを懸念する。格付投資情報センター(R&I)は武田薬品の発行体格付けをダブルAマイナスからシングルAに2段階落とした。ムーディーズ・ジャパンはA2からBaa2に3段階引き下げ、S&Pグローバル・レーティング・ジャパンはシングルAマイナスからトリプルBプラスに1段階下げた。
買収によって武田薬品の財務は大幅に悪化するが、年180円の配当は維持する方針を示している。こうでもしなければ、日本人の既存の株主の“反乱”が起こるからだ。このため、コア(中核)以外の資産の売却に踏み切り、負債削減を早期に進める。資産の売却は最大100億ドル(約1兆1000億円)規模になると試算されている。

 

 

 

大衆薬事業が焦点に

 


 手始めに大阪市内の本社ビル「武田御堂筋ビル」や周辺のビルをまとめて米国の不動産ファンドに総額500億円程度で売却する。売却先は米ファンドのグリーンオーク・リアルエステート。武田にとっては創業の地・道修町のシンボル的な建物で、登記上の本社はここだ。売却後も賃借に切り替えて使用する。

 武田は1月28日、大阪の本社ビルなど、全国の21の資産を売却すると発表。税引き前の売却益は総額で約380億円。19年3月期の業績予想で、不動産売却益として800億円を織り込んでおり、大阪本社ビルなどの売却はこの一環。子会社の武田薬品不動産も身売りの対象だ。

 昨年、東京・中央区に「武田グローバル本社」を約660億円かけて完成させた。グローバル本社ビルは保有し続ける方針で、武田の創業の地、大阪離れが進むことになる。

 18年5月に、中国の合弁会社の保有株式を約300億円で売却すると発表しており、大阪本社ビルの売却がリストラ第2弾となる。

 欧米では、一般用医薬品(大衆薬)をめぐるM&A(合併・買収)が活発化している。医療用の新薬の開発コストが高くなるなかで、大衆薬を切り離して資金を得て、新薬の開発につぎ込む「選択と集中」の動きが目立つ。医療用医薬品と大衆薬はビジネスモデルが全然違い、両方を持つ利点はあまりない。

 武田薬品は否定するものの、「アリナミン」などの大衆薬事業を手放すとの噂は絶えない。武田薬品は戦後、“アリナミン王国”を築いた。1960年代には、全利益の半分をアリナミンが稼ぎだした。80~90年代には抗潰瘍薬「タケプロン」や糖尿病薬「アクトス」など年間売り上げが1000億円を超す4つの大型新薬を販売。「4打席連続ホームラン」と称され、絶頂期を迎えた。これら新薬の開発はアリナミンが莫大な利益を上げたから可能になった。

 武田薬品の黄金期を築いたアリナミンを売却するとなれば、衝撃は大きい。世間のイメージは「アリナミンのタケダ」だからだ。

「売りに出されれば、国内外の大衆薬メーカーや投資ファンドによる争奪戦が繰り広げられる」(国際M&A専門のアナリスト)

 過去のしがらみと無縁なウェバー社長は、創業の地にある本社ビルの売却に続き、アリナミンを含む大衆薬事業の売却に踏み切るのか――。

 2019年の日本医薬品業界最大の関心事である。
(文=編集部)